免税事業者問題

3月2日に軽減税率を盛り込んだ税制改正法案が衆議院を通過しました。

その後、産経新聞がトップ記事で消費税10%見送りという見出しの記事を掲載しました。世間の空気感は完全に増税見送りとなっていますが、安倍総理は、頑なに予定通り増税は行うと答弁しており、一体どの情報を信用してよいのか見当もつかない状態になっています。

ともあれ、軽減税率を盛り込んだ税制改正法案は可決しており、今後、この議論はさらに活発化していくことでしょう。

そのような状況の中で、我々税理士を含む職業会計人はどのような立場をとるべきか。税理士にも多種多様な方々が存在していますので、意見の一元化は難しいとは思いますが、やはり我々の基本的な立場というのは平等な税制であるべきということだと思います。

今回の改正法案の中で我々が特に問題にしている事項は免税事業者問題と言われるものです。インボイスの導入とともに、インボイスを発行することのできない免税事業者(課税売上高1000万円以下の事業者)は課税事業者との間で不利になるのではないかという問題提議です。

消費者行動の道理として、同じ値段であれば、仕入れ税額控除の可能な課税事業者から購入し、結果として免税事業者は市場から排除、撤退を余儀なくされるのではないか。

特に新規に会社を設立する事業者にとっては甚大な影響が生じる。

会社法の改正以降とそれ以前を比較すると、圧倒的に少額資本の企業が増加しているという印象を受ける。このことの善し悪しの判断はともかく、起業を容易にするという会社法の趣旨は大いに達成されていると考える。これは、単に会社法の改正により会社設立のハードルが下がったというだけでなく、税制上の優遇とのセットがあったからこそだと考えるべきであろう。

仮に軽減税率及びインボイスが導入されれば、我々税理士は免税事業者では取引上の制限を受ける可能性が高いので即時に「課税事業者選択届」の提出を促すことになろう。消費税10%になれば消費税の額もそれなりに大きくなり、現在の起業を検討している方々の資金力とのギャップはさらに広がろう。

免税事業者はなくすべきという議論も当然あるが、現実に起業される方々の多くは、そこまで税のことに詳しくない。一体どれほどの起業家が消費税の正しい計算の仕方を理解しているであろうか。消費税の税率の増加とともに消費税の滞納もしくは分割払いの申し立ては件数は相当数に上っていると推測する。単に計算方法すら理解できずに会社の設立なんかするなと切り捨てるべき問題なのだろうか。

新聞などの報道を見る限りでは、免税事業者問題はまだ議論されているようには見えない。もしかするとこのまま議論をされることなく消費税の増税へと進むのであろうか。

ちなみに改正法では免税事業者からの仕入れのうち80%分だけを仕入れ税額控除の対象にするという配慮を行っているが、全くビジネスを行ったことがない、もしくは他人事にしか考えていない方々のたわごととしか思えません。

零細企業から中小企業まで幅広くクライアントにもつ我々税理士が声をあげなければ、免税事業者問題はさしたる議論すらされないのではないかという危惧さえ覚えます。